ご自宅を売却して、有料老人ホームへの入居資金へ充当を計画されている方は少なくないと思います。
不動産を売却する時には、必ず所有者から売却の同意承諾を得る必要があります。所有者が複数いる場合は、全員から必ず同意承諾が必要です。
しかし、共有持分者の一人が行方不明だと不動産を売却することができません。このような事例の、解決方法はあるのか?をご紹介させて頂きます。
共有持分者が行方不明の相談事例
ここでは、80歳後半で独居生活の父を持つ息子様の事例をご紹介します。
父が現役時代に、兄と親子ローンにて東京でマンションを購入。5年ほど父と兄で生活していたが、兄が転職をきっかけに千葉へ移住してから父が独居生活となる。
定年していた父に代わり、兄が父へ住宅ローン返済金を父の口座に振り込んできていたが、ある日を境に入金が途絶えてしまった。
心配した父は、兄へ連絡をするが音信不通。勤務先へ連絡したが退職して連絡がつかないとの報告を受ける。父は兄の住まいを尋ねるが不在のため確認を取ることが出来ず、警察へ相談することとなる。
警察官と自宅を再訪して大家立会いの下、兄の自宅に入ったが転居しており空き家となっていた。
捜索願を提出するが後日取り下げることに
兄の安否を確認するため、警察へ捜索願を出すが見つからないまま月日が流れる間の住宅ローンは、父が連帯債務者となっていたため年金と預貯金から捻出して返済を行う。
捜索願を出しているので、定期的に警察との打ち合わせがあるが、高齢の父には身体的に大きな負担となり、3年ほど経過したころに捜索願を取り下げることとなる。
体力が低下してきた父には、独居生活がだんだんと負担となり、家の中の片付ができなくなったため、ゴミ屋敷に近い状態となってきてしまう。
安心して生活できる高齢者住宅への入居を希望するようになってきたが、毎月の支出は管理費や固定資産税等で住宅ローンの他にも毎月+5万円の負担により、預貯金では入居一時金の準備が難しい状況となっていた。
不動産会社へ自宅売却を相談するが…
預貯金では足りないため、自宅を売却した代金で入居一時金を充てるために、大手不動産会社数社へ売却相談したが、共有持分者である兄からも売却の意思がないと、不動産売買はできないと断られてしまう。
何年も連絡が取れない日々が続き、話すことも意思確認をすることも、できない状況であることを伝えるが、答えは変わることはなかった。
法律無料相談へ相談するが…
弁護士に相談するが、解決までに約1~2年要すると思われるので最善策としては、なんとかして兄と連絡を取ることのことだった。
連絡が取れたら再度相談に来るようアドバイスをもらったが、父の体力を考えると少しでも早く高齢者住宅へ移したいため実質的な解決とはならなかった。
そこで、兄が移転先へ住所変更しているかもしれないので公的書類を入手すると、大阪府に転居していることが分かった。早速、住所を頼りに尋ねてみたがそこは簡易宿舎だった。
周辺環境は、昼から飲酒中の通行人が行き来し、玄関先にはテレビカメラが設置され、鉄の扉は常に施錠されており、インターフォンの配線は切断されているため、兄の存在確認をすることが出来ず、周辺環境の恐怖も相まって、結果として連絡が取れないまま帰京することとなった。
不在者財産管理人制度
今回のように、共有持分者が行方不明で意思確認ができない場合は、行方不明者に代わって、不在者の財産を管理する手続きがあります。
この手続きを不在者財産管理人制度と言い、手続きには次の書類が必要となります。
- 捜索願受理証明書
- 受取人不在で返送された郵便物
- 関係者による陳述書等
6ヶ月程度を要することや、利害関係人以外に管理人が選任されてしまう可能性があること等の煩雑さが求められます。
解決事例のご紹介
今回の問題を担当された株式会社インプルーブ様に、解決までの具体的なスキームを伺いましたのでご紹介します。
不在者財産管理人制度が利用できない
まず最初に取り掛かったのは、不在者財産管理人制度を利用することでした。不在者財産管理人が選任されることで不動産売却が可能になるためです。
そこで兄の住所宛に郵便物を送り、受取人不在の返送物を受け取ることで「不在の事実の証明」とする予定でしたが、待つが2週間ほど経過しても、届くことはありませんでした。
これは兄が郵便物を受け取っている可能性が高く、その場合には不在者ではないため、不在者財産管理人制度の利用はできない事となります。
共有物分割請求訴訟
次の計画は、共有物分割請求です。不動産の共有状況解消を裁判所を介して求める方法で、他の共有者と調停員が立ち会いの下で話し合い、話がまとまらない時は訴訟にて解消を進めることとなります。
しかし、持分で問題を抱えている方すべてのケースで利用できるわけではありません。
5年以内は分割しないといった不分割特約がないことや、申し立てを受けた側が対象不動産に居住して権利濫用にならないこと等が条件となりますが、今回は該当していません。
解消の方法は、持分を買い受ける価格賠償や、不動産を持分に基づき分割して各々が所有する現物分割がありますが、今回は不動産競売を申し立てを行い、売却代金を持分に基づき受け取る方法を検討しました。
しかし、この制度を利用するには1年以上の期間と多額の費用が掛かります。
年金生活で住宅ローン等の返済をしている状況で、費用支払いが困難であることや早期売却ができないことから、見送ることとなりました。
PLAN-B計画
不動産の売却を半ば諦めてしまってましたが、私たちはPLAN-B計画として不動産の持分売却をご提案しました。
通常の不動産売買では持分すべてが対象となります。なぜなら、対象地に他人の持分があると利用方法等を単独で決定することが出来ず、購入者が見つからず売却が出来なかったり、通常より著しく価値が下がってしまうためです。
数多くの不動産会社が、買取不可だったり二束三文の価格の提示の中で、私たちは通常価値よりは減価してしまうけど高齢者住宅への入居費用が確保できる、他社以上の金額を提示をさせていただきました。
これにより、最優先である「最短でお父様が高齢者住宅へ入居ができる事」と、「毎月の住宅ローン返済+管理費・固定資産税の金銭的負担」を解決することができるため快諾頂く事が出来ました。
しかし一点、共有持分者と連絡が取れて、売却に同意を頂けることが最善です。
その為、最後にもう一度大阪へ訪ねることを提案致しました。この際に、高齢者な弟様が単身で行くには環境面での心配があるため、大阪行きへは同行させていただきました。
奇跡が起きる
大阪行きに同行させて頂き、お住まいの簡易宿舎へ伺いましたが、やはりインターフォンも不通でした。時々、宿舎から出てこられる方に聞いても知ってる方はいらっしゃいませんでした。
宿舎周辺を歩き回り、2時間ほど経ったので疲れが蓄積してきたので、喫茶店で休憩をとることになります。
コーヒーを飲みながらの雑談で「兄貴とはもう30年以上会ってないから、万が一会えたとしてもお互い分からないかもしれない」と仰った時の横顔がとても印象的でした。
新幹線の時間も押し迫ってきたので、最後にもう一度宿舎を訪ねて会えなかったら諦めて帰ることで再訪しましたが、やはり鉄の扉は閉まったままです。
10分ほど呆然と立ちすくみ、もう諦めて帰ろうと話をした最中に弟様の顔が一変して、「兄貴!」と声を発されました。
後ろを振り返ると、自転車を停めて宿舎に入ろうとする一人の男性がいました。その男性も一瞬間を置いたあと弟様だという事にお気づきになりました。
お兄様は申し訳ない気持ちと再会の喜びの複雑な表情だったのも大変印象的でした。お父様の状況や近況などを話された後に不動産売却への同意を頂き、連絡先を交換されて大阪を後にしました。
売却手続きに関しては、お兄様は東京に来ることが難しく、弟様も再度大阪へ伺う事が難しいため、司法書士と出張することで売却手続きを無事に完了することが出来ました。
これにより、通常の不動産売却で持分売買より多くの売却代金を、お父様及びお兄様に受領していただく事が出来ました。