近年、爆発的に施設の数が増えているサービス付き高齢者向け住宅。
特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームに比べ、自由に生活ができることが魅力とされています。しかし本来、自由度の高いはずのサービス付き高齢者向け住宅がなのですが、そのような状況にないサービス付き高齢者向け住宅が増えているようです。
サービス付き高齢者向け住宅は高齢者が安心して生活できる賃貸住宅(マンション・アパート)です
厚生労働省のHPには『サービス付き高齢者向け住宅とは、高齢者単身・夫婦世帯が居住できる賃貸等の住まいです。平成23年の「高齢者の居住の安定確保に関する法律(高齢者住まい法)」の改正により創設された登録制度です』と表記されています。
登録の基準は、次の通りです。
- 各専用部分の床面積は、原則25㎡以上
(ただし、居間、食堂、台所そのほかの住宅の部分が高齢者が共同して利用するため十分な面積を有する場合は18㎡以上) - 各専用部分に、台所、水洗便所、収納設備、洗面設備、浴室を備えたものであること
(ただし、共用部分に共同して利用するため適切な台所、収納設備または浴室を備えることにより、各戸に備える場合と同等以上の居住環境が確保される場合は、各戸に台所、収納設備または浴室を備えずとも可) - バリアフリー構造であること
安否確認サービスと生活相談サービスが必須の見守りサービスです。ケアの専門家が少なくとも日中建物に常駐し、これらのサービスを提供します。
簡単に説明すると、バリアフリー構造で、居室の面積は原則25㎡以上。居室内に水洗便所があり、ケアの専門家による安否確認と生活相談サービスが付いている住宅。ということになります。つまり、ちょっと乱暴な言い方をすれば
「サービス付き高齢者向け住宅は、安否確認と相談できるサービスが付いたバリアフリー構造の賃貸住宅(マンション・アパート)」ということになります。
また、特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームは厚生労働省が管轄していますが、サービス付き高齢者向け住宅の都道府県知事への登録制度は国土交通省と厚生労働省の共管制度となっています。
創設当初の入居の条件は自立か要支援だった
平成23年の創設当初、高齢者向けビジネスの新たな展開を見込んだ多くのハウスメーカーなどが、サービス付き高齢者向け住宅事業に乗り出しました
当時は買い物などが便利な立地にあり、高級感のある外観の作りが多かったように記憶しています。
しかし残念ながら、多くのサービス付き高齢者向け住宅は入居者が入らず、何年たっても満室にならないところもありました。
何故、入居者が集まらなかったのしょうか?その理由のひとつとして考えられるのが、入居時の条件です。
創設当初、多くのサービス付き高齢者向け住宅の入居時の条件が「自立、もしくは要支援」としていました。
入居後に介護が必要になった場合は、重度にならない限り住み続けられていましたが、あくまでも入居時はある程度自分のことは自分でできる方を対象としていました。
しかし、考えてみてください。自立や要支援の人が、「一人暮らしに不安」を抱えていたところで、住み慣れた自宅を離れ、近所のコミュニティを手放してまで、新しい場所に引っ越すでしょうか?
高齢になればなるほど新しい環境になじむのには時間がかかります。そんな理由もあり、鳴り物入りでスタートしたサービス付き高齢者向け住宅でしたが、どこの事業所も入居者集めに苦戦していました。
介護が必要な方も入居可に
『建物は建てたが入居者が入らない』では運営が成り立ちません。そこで多くのサービス付き高齢者向け住宅は、施設内で介護保険以外のサービスを24時間提供する職員を配置するなどし、入居時の条件を「要介護も可」としました。
サービス付き高齢者向け住宅に入居して介護を受けるには、外部の居宅支援事業所と契約し、どこのデイサービスを利用するか?
どこの訪問介護事業所を利用するかをケアマネジャーと相談し、それぞれの事業所と契約をしてケアプランを作成してもらい、介護のサービスを利用しながら生活をします。
入居時の条件を「要介護も可」としたこともあり、サービス付き高齢者向け住宅=介護が必要な人が入居する施設。というイメージとなりました。
また介護付有料老人ホームに比べて比較的安い価格で入居ができること、自由に外出できる(※)ことなどもあり、サービス付き高齢者向け住宅に入居する人が増えてきました。
ここで重要なキーワードは「外部」です。創設当初のサービス付き高齢者向け住宅には、居宅支援事業所や訪問介護事業所、デイサービスなどは併設されていませんでした。
ですから、介護が必要な方は、近隣の事業所と契約をして介護保険のサービスを利用しながら生活されていたのです。
※残念ながら、現在ではコロナウイルスが蔓延していることもあり、以前のように自由には外出できないようです。
訪問介護事業を併設して介護保険サービスは施設内のヘルパーさんから
多くのサービス付き高齢者向け住宅は、オーナー(土地の所有者)に建物を建ててもらい、数十年(20年~25年)の間賃料をオーナーに支払うと言う方法で運営しています。
これは、施設が満室であっても、入居者が0人であっても、毎月オーナーには賃料を支払うという仕組みです。
しかし、この仕組みは、一定の入居者がいなければ赤字運営になってしまうということです。
「ならば、少しでも運営をプラスにするために、入居者が外部と契約していた介護保険のサービスを自社と契約してもらい、介護保険のサービスから収益を得ようではないか!」と考えた事業所が現れ始めました。
訪問介護の事業所が施設内に併設されているところもあり、介護保険のサービスは施設内のヘルパーさんが提供しているところもあります。
併設しているデイサービスを利用することが入居の条件のところも
繰り返しになりますが、サービス付き高齢者向け住宅は、介護が必要になったら外部の事業所と契約し、介護保険のサービスを利用しながら生活する住宅です。しかし、最近では、デイサービスが併設されているサービス付き高齢者向け住宅が増えてきています。
施設内にデイサービスが併設されていれば、雨が降っても、雪が降っても濡れることなくデイサービスに通えます。
真夏の暑い日でも真冬の寒い日でも、快適な温度で移動ができます。一見いいことずくめのようですが、問題点も指摘されています。
それは「入居の条件は併設しているデイサービスを利用すること」という縛りを設けているサービス付き高齢者向け住宅の存在です。
100歩譲ってこの条件でも入居者がOKとするならば良いでしょう。しかし最近、私が相談を受けたAさんからの事例には驚きました。
その方は要介護3で認知症はありません。賃貸マンションに一人で暮らしていましたがこの先のことを考え、サービス付き高齢者向け住宅に入居されました。
Aさんは併設のデイサービスを利用することが入居の条件だと知っていましたが、新築にも関わらず家賃も食費も安いので入居を決めたそうです。
本当は、お友達のいる今までのデイサービスに通いと思ったそうですが、自由にデイサービスを選べるところは、利用料が高額だったので支払いが難しいと判断されたそうです。
Aさんはこれまで通り、週に3回ほどデイサービスを利用しながらゆっくりとした生活ができると思っていたそうです。
しかし現実はAさんの思っていた暮らしと違っていたのです。
毎朝、職員が「デイサービスに行きましょう」と声をかけてくる。「今日は部屋でゆっくりしたい」と話をしても、「デイサービスに行かないと昼食が食べられない」とか、「1日中、部屋にいるとつまらないでしょう?」などと声をかけられ、行かなくてはいけない雰囲気になってしまうことが苦痛だとおっしゃいます。
この状況からAさんのケアプランには、毎日のデイサービス利用が組み込まれているのではないかと想像がつきます。
本来ケアプランは、本人の意向や希望が組み込まれなくてはならないはずです。
介護保険のサービスは利用者が自由にサービスを選べる仕組みでもあるはずです。
しかし残念ながら、Aさんが入居されたサービス付き高齢者向け住宅では、本人の希望よりも特定法人(サービス付き高齢者向け住宅と同じ)のサービスを優先したプランになっているようです。
なぜこんなことが起きるのでしょうか?
それは入居者の意向や状態を考慮せず、サービス付き高齢者向け住宅事業者と同一法人によるサービスをケアプランに設定しているからです。
簡単に言うと介護保険の収入を多くしたい意向なのだと考えられます。
入居前に細かく確認することをおすすめします
サービス付き高齢者向け住宅にデイサービスや居宅支援事業所、訪問介護事業所が併設されていることが問題なのではありません。
入居者がサービス事業者やサービス内容を自身で選び選択できないことが問題なのです。
安い家賃や食費で入居者を集め、併設しているデイサービスや訪問介護を利用することが条件になっているサービス付き高齢者向け住宅もあります(家賃や食費が安くても、区分支給限度額上限までのサービスが設定されている場合には、介護保険の自己負担額が高くなり、1ヶ月の利用料の負担は大きくなります)。
厚生労働省は、ケアマネジャーに対し「入居者の意向や状態を考慮せず、アセスメントからは必要性が見いだせない住まい事業者と同一法人によるサービスをケアプランに設定している。その結果として区分支給限度額上限までサービスが設定されている」などの事例を過剰なサービスとして、居宅支援事業所への注意喚起を行っています。
サービス付き高齢者向け住宅を選ぶ際には、一ヶ月の家賃や食費の安さばかりに気をとられずに、入居後、介護保険のサービスをどこから受けることができるのか?自身の意向や家族の意向をケアプランに反映させてもらえるのか?ある程度の自由な暮らしが提供されるのか?などを考慮してみることが大切です。