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在宅介護の虐待事例と知っておきたいレスパイトケア

近年、高齢化が進むにつれて、在宅での介護が増えています。

その殆どが娘や息子が親を介護する形で大切な家族ですが、介護の必要量によっては負担が大きくのしかかり、虐待につながるケースもあります。

介護者が一時的に休息をとるためのサービスをレスパイトケアと呼びます。この記事では、事例を挙げながら虐待とレスパイトケアについて考えていきます。

目次

在宅介護における高齢者虐待の現状

在宅介護の虐待を通報するのはケアマネージャーが多いです。

訪問介護やデイサービスなどから虐待をしているかもしれないと相談されたケアマネージャーは、自宅を訪問し事実を確認します。

しかし、家族からの虐待は発見しづらいものです。

家族が虐待をしてしまう要因としては、介護疲れやストレス、介護への理解不足、孤立・補助介護者の不在等が挙げられています。

この中で、特に孤独感は一番辛いものではないでしょうか。

昔は、玄関を勝手に開けて、余ったおかず等を置いていくようなご近所さんもいたり、介護をしていても自分の家の状況を分かってくれる方が傍にいる環境が手に入りやすかったと思います。

しかし、現在ではご近所付き合いといってもあいさつ程度で、さらに核家族化が進むことで、介護者とその家族が一対一になる時間が多くなったこともこの事実の背景にあると思います。

令和3年度厚生労働省発表の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果によると、在宅での虐待の通報は、令和2年度で35,774件、令和3年度で36,378件と1年で604件も増えていました。

在宅で虐待を受ける高齢者の状況

虐待をされた高齢者は、認知症の方が多いです。

認知症というものは、接したことのない方には、とても理解し難い病気だと思います。

ただの物忘れではなく、何度も同じことを繰り返したり、怒りっぽくなったり、気うつになり否定的な事をずっと繰り返し言っていたりと、介護者の精神的な疲れも想像するのが難しいと思います。

特に親の介護となると、事例で娘も言っていたように、元気で暮らしていたころからの変貌ぶりに気持ちがついていけず、理解ができない、受け入れられないことが多いでしょう。

虐待の内容は圧倒的に身体的虐待が多いです。これは介護疲れやストレスといった所から、カッとなり手が出てしまうようです。このような事態にならないためにレスパイトケアの必要性が言われています。

令和3年度厚生労働省発表の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等 に関する法律」に基づく対応状況等に関する調査結果】によると、虐待をされた高齢者は、認知症の方が半数以上で、次いで精神障害や排せつ介助の困難さのある方でした。

在宅介護の虐待事例

未婚の息子(62歳)と、離婚して実家へ戻ってきた娘(59歳)と、その娘二人と、5名で一緒に暮らしているAさん(89歳)の事例をご紹介致します。

若い頃のAさんは、子育てをしながら旦那様の仕事を手伝い、当時の女性では珍しく大きなトラックを運転しながらバリバリと働き、仕事も家事もこなしている頼れるお母さんでした。

旦那様が他界してからも家を引き継ぎ、孫達の面倒をみて娘の仕事を助けていました。

介護保険が使えるようになると、毎週2回デイサービスに通い始めました。

もともと明るい性格のAさんは、デイサービスでも会話の中心で楽しく過ごしていましたが、80歳を過ぎた辺りから、膝を悪くしてしまい歩くのが億劫になってきました。

そうなると、みるみるうちに活気がなくなり、得意だった掃除も食事の準備も全くやらなくなり、認知症の症状も出てきてしまった頃にデイサービスのスタッフは、娘から相談を受けます。

母が何も分からなくなったようで、昔はあんなに元気だったのに今はずっとボーっとしたままで、お皿洗っておいてって言ったのに全くやってくれていなくて、私も仕事があるのに…

娘はだんだんと何もできなくなって、頼りなくなっていく母に憤りと悲しさを感じていたようです。

娘は兄と相談し、兄が休みの日以外の平日は全てデイサービスへ通わせることにしました。

自宅に引きこもりがちなAさんですがデイサービスへ来ると笑顔もみられるため、デイサービスのスタッフもこれで良かったと思っていました。

しかし、デイサービスでの入浴中にAさんの体に大きな痣が発見されました。太ももにあった痣は出来たばかりの大きなものと、少し前のものが何か所もありました。

Aさんにどうして痣ができたのかを聞くと「わからない」と答え、ただ痛がるだけでした。

デイサービスのスタッフは、お家での家族のお話しを聞きたいとAさんに言うと「怖いからやめた方がいい。あんな息子に私は育てた覚えはない。」と怯えた顔をしていました。

息子も娘と同じように、何もできなくなった母親を認めることができず、憤りと悲しみを暴力で晴らしていたようです。娘は手こそ挙げませんでしたが暴言をぶつけることがあったそうです。

デイサービスのスタッフはケアマネに相談し、Aさんは一時的にショートステイを利用することになりました。

レスパイトケアとは

レスパイト(respite)は、英語で「休息」や「息抜き」を意味する言葉です。

レスパイトケアとは、在宅で介護をしている家族などに休息をとってもらうことを目的としたサービスの提供のことを言います。

レスパイトケアの事例

奥様(69歳)と二人暮らしのBさん(73歳)の事例をご紹介致します。

大手商社の営業マンを定年退職をしてから、奥様とセカンドライフを楽しんでいました。

まだまだ自分は若いと思っていて、趣味のゴルフをするためゴルフ場や練習場に毎日のように通っていて、奥様はお花教室の講師をしており、現役で仕事をされています。

そんなある日、Bさんは階段で転倒して頭を強く打ってしまい、高次脳機能障害と診断され一人で外出が難しくなりました。

Bさん自身はしっかりしているつもりなので、家に閉じ込められているのが我慢できず、時折奥様に強く当たり散らすようになってしまいした。

そして、その後は決まって「こんなことを言うつもりはなかった。俺はどうかしてしまった。」と奥様に謝るのです。

そんなBさんを奥様は支えていきたいと思いつつも、Bさんの激しい感情の浮き沈みに気持ちのやりどころがなく、思い悩む日が続いていた時に地域包括支援センターへ相談に行きました。

担当になったケアマネージャーは、奥様へのレスパイトケアが必要と考えて、Bさんにデイサービスの利用を勧めました。

Bさんがデイサービスへ行っている間は、奥様は自由に外出や仕事ができるようになり、Bさんと離れることに少し罪悪感がありつつも、気持ちが楽になった事でBさんとの会話も楽しめるようになったのです。

しかし、だんだんとデイサービスの終わりの時間が近づくのが苦痛になってきました。

ある日、奥様は夕飯にスーパーのお惣菜を出しました。

「ごめんね。今日はとても疲れていて、お惣菜だけどあなたの好きな物を買ってきたから。」と申し訳なさそうにテーブルに並べました。

するとBさんは「お惣菜だけどじゃない!」と怒りだし、お皿に盛られた食事を床へ叩きつけてしまった結果、奥様の我慢の糸が切れたのか、家を飛び出してしまいます。

奥様は、あてもなく歩いていましたが、毎年初詣で行く神社の前で思い出しました。

「今年も家内安全を祈願したんだった。我慢できなくて出てきちゃったけど、一人で私のこと探し回ってたら大変!」

奥様が家に戻ると、食卓のテーブルの横で、泣きながら床に落ちた食事を手づかみで食べているBさんがいました。

Bさんは奥様のことは目に入っていない様子で下を向きながら「ごめんよ。ごめんよ。」と繰り返していたのです。

その姿を見て、奥様はその場で泣き崩れました。もう自宅での介護は難しいと思ったのです。

後日、Bさんは有料老人ホームへ入居されて、奥様はほぼ毎日顔を出し、一緒に食事や外出など充実した日々を楽しまれているそうです。

事例のように、Bさんの介護に疲れてきた奥様がケアマネージャーに相談し、ケアマネージャーは、Bさんがデイサービスを利用することで、奥様が休める時間を作ることができるのではないかと考えたことがレスパイトケアにあたります。

この事例では、Bさんは最終的に老人ホームへ入居しましたが、大きな意味で老人ホームの入居を検討することもレスパイトケアに入るのではないでしょうか。

きっと、二人での生活を続けていたら、お互いに辛い思いが多くなり、最悪は虐待や精神疾患やストレスによる病気になってしまうかもしれません。

脅すわけではありませんが、家族の形を守る事でも別々に暮らす選択はあって良いものだと思います。

レスパイトケアの種類

訪問介護(ホームケア)

自宅にヘルパーが来ることで、その時間は介護から離れられ、休むことができます。

曜日と時間を決めて毎週利用するものなので、まとまった時間休みたい場合はほかのサービスがいいかと思います。

デイサービス

日中、アクティビティやリハビリ、昼食や入浴のサービスを受けられる施設です。

施設までは、送迎があるところが多く、玄関先まで迎えに来てくれるので送り出した後、帰ってくるまでの間で休むことができます。

ショートステイ

宿泊が可能な施設です。

利用期間は一週間程度で利用する方が多いですが、介護度によっては1日~数か月まで利用することが可能です。

入院

医師が、自宅での介護と在宅医療が一時的にできないと判断した場合のみ医療保険で利用することができます。

医師の判断が必要なので、利用はかなり制限されます。

まとめ

これまで、高齢者への虐待とレスパイトケアについて書いてきましたが、介護者(家族)は、虐待をしたいと思っている人は殆どいないと思います。

「ついカッとなってしまって」よく聞くフレーズですが、介護現場にいると自分の気持ちをどこへもって行けばいいのか、やりきれない思いも悲しい思いも、憤りもたくさんあります。

特に日本は、介護は家族がするべきという古いイメージがありますので、介護保険を使うことや人に預けることをためらう方もいるようです。

昨今の高齢社会では介護は他人事ではありません。社会全体で取り組まなければいけないことですので、利用できるサービスは、どんどん利用した方がいいと思います。

また、介護する方(家族)の笑顔が一番介護をされる方の嬉しい事です。

介護の知識が無くても、隣で笑っていてくれる家族が一番安心できて頼りになるのですから、自分が辛くならないように、介護従事者を頼ることも大切な介護であると思っていただきたいです。

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この記事を書いた人

ホールドハンズ株式会社
シニアサポート事業部所属

1994年(平成6年)3月生
埼玉県出身
1男1女の4名家族

介護付き有料老人ホームの介護スタッフとしての経験を積み、ホールドハンズ株式会社へ入社。

「シニアが安心して生活できる環境創造企業」の企業理念の下に、高齢者住宅へ入居の際の身元保証を中心に、専門家との協業により高齢者施設さがしから不用品処分、不動産売却、認知症問題などといった様々な課題の総合窓口としてサポートを展開中。

介護職経験を活かしたシニア視点のきめ細やかかなサポートが好評。

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