介護は決して他人事ではありません。今から知っておくべき介護のことを分かりやすく解説します。
転倒がきっかけで介護が必要に!
脅かすような見出しで驚かれた方もいらっしゃるでしょうが、病気や骨折をしたことがきっかけとなり、入院したことで、介護が必要になるという事が多くの高齢者に起きている現実なのです。
さっきまで普段と変わらず庭の手入れをしていたところ、ちょっとした石につまずき転倒。
あまりの痛さに立ち上がることもできず、一人で病院に行ける状況ではないので、救急車を呼んで病院へ搬送された結果、診断結果は大腿骨骨折で入院期間は3ヶ月。
このような事例は、珍しいことではありません。
高齢になると、骨粗鬆症骨などにより骨が脆くなるうえに、バランス感覚が悪くなって転びやすくなります。ある調査では、大腿骨骨折の患者は70歳以上の方が多いという報告があります。
入院がきっかけで介護が必要になってしまう多くの原因は、入院中はベッド上での生活を余儀なくされます。
ましてや大腿骨骨折の場合、歩行もままならないため、あっという間に足の筋肉は衰えるうえに、刺激の少ないベッド上での生活は、認知機能も衰えてしまいます。
きっと、骨折して入院した方はこんな気持ちかもしれません。
リハビリ!リハビリ!って言われても…
こんなことになっちゃって、気力も萎えちゃったし情けないわ。
もうすぐ退院だから『要介護の申請をして下さい』って、この私が介護されるの?あんなに元気だった私が?どうしてこんなことに・・・
でも、このままじゃ家で生活なんてできないわ。
だって、布団で寝てたのよ。今のままじゃ布団から起き上がれないわよ。
え~、お風呂だって、まだ一人では入れないし。どうしましょう。
家には、私より5歳も年上で、杖をついてやっと歩いている旦那しかいないのよ。
おまけに私は専業主婦だったから、うちの旦那は炊事・洗濯・掃除なんて結婚してから一度もしたことないんだから。家になんて帰れるわけないじゃない。
どうすればいいよの~
息子はアテにならないし、娘は嫁に行った先の親と同居しているし。
子供たちの世話になる気はないけど、ちょっと何かを頼みたくてもすぐ来られるわけじゃないわよね。
それより要介護の申請をして下さいと言われたけど、どこでどんな手続きをすれば良いか全く分からないし、どうすれば良いのよ~
高齢になると、段々に身体機能が衰えて徐々に一人でできることが少なくなり、介護が必要になるケースもありますが、入院などがきっかけで急に介護が必要になることもあるのです。
「いざ!介護が必要になった」場合のときに備え、事前に家族で話し合っておくことが大切です。
介護保険サービスを受けるためには
65歳になると送られてくる介護保険被保険者証(以下、「介護保険証」という)。65歳以上の第1号被保険者全員に交付されます。
これで介護が必要になったら、介護保険のサービスが使えると思われている方も多いようですが、これだけでは介護保険のサービスを利用することはできません。
介護保険証を持って近所のデイサービスに行き、利用したいと言っても利用できないことをご存じでしたか?
実は介護が必要になって、介護保険のサービスを利用するには「要介護認定の申請」をして要介護(もしくは要支援)の認定を受けないと、サービスは利用できないのです。
余談ですが、65歳の時に送られてきた介護保険証。今、どこに閉まってあるか分りますか?
万が一紛失した場合には、現在お住いの自治体担当窓口で再交付の手続きをすれば大丈夫ですが、前述の方のように急に要介護の申請をする必要があった場合、スムーズに手続きを進められなくなってしまいます。
65歳以上の方は、今すぐ介護保険証を探して見つけることができたら、忘備録などに保管場所を記載しておくと良いでしょう。また、家族にも伝えておくことをおすすめします。
見つけられなかった方は、まさかの時のために元気なうちに再交付の手続きをしましょう。
相談はまず地域包括支援センター
介護保険のサービスを利用するためには、お住いの自治体へ「要介護認定の申請」を行う必要があるので、お住まいの地域包括支援センターか、市区町村の介護保険の窓口に相談しましょう。
市区町村の介護保険の窓口の場合、居宅介護支援事業所(ケアマネジャーがいる事業所)の一覧表を渡されて、一覧から選んで直接相談に行くように言われることが多いので、地域包括支援センターへ行くことをおすすめします。
ただし、地域包括支援センターは、市区町村ごとに担当のエリアが設定されていますので、お住いの地域包括支援センターがどこにあるのかを、事前に調べてから相談に行ってください(病院に入院中であれば、病院のソーシャルワーカーにご相談ください)。
要介護の認定申請をするには、認定を受ける本人はもちろんですが、家族やケアマネジャー(以下、ケアマネ)が代行して行うこともできます。ケアマネにお願いする場合、申請の代行は無料です。必要な書類だけ揃えてあとはお任せしてしまいましょう。
要介護・要支援認定に必要な書類
被保険者の区分 | 申請に必要な書類 |
---|---|
65歳以上 (第1号被保険者) | 要介護認定・要支援認定申請書 補助調査票 介護保険被保険者証、マイナンバーカード※1 |
40歳から64歳の (第2号被保険者)※2 | 要介護認定・要支援認定申請書 補助調査票 医療保険被保険者証 介護保険被保険者証(交付されているかたのみ) マイナンバーカード※1 |
※2.40歳から64歳(第2号被保険者)は、介護保険の対象となる病気が指定されています
※必要な書類は、自治体により異なる場合があります。詳細はお問合せください。
要介護申請に知っておくこと
要介護認定の申請をすると、訪問調査が行われます。
訪問調査は、自治体の担当者などの訪問調査員が自宅や入院中の場合は病院に来てくれて、聞き取り調査をします。
その内容は、身体機能・起居動作 ・生活機能 ・認知機能・精神・行動障害 ・社会生活への適応のほか、過去14日間に受けた特別な医療についてなど、約50項目以上あります。
掴らないで立てるか?爪切りはできるか?洗顔はできるか?など、介護が必要性や、介護の必要度合いなど細部にわたっています。
調査を受ける高齢者は、普段できないこともできるできますと言ってしまいがちです。
実際はテーブルに手を付かないと立ち上がれないにもかかわらず、良いところを見せようと必死に立ち上がってしまうケースなどよくある話です。
普段できないことなのに調査員の前でできてしまうと、調査員は介助されていないの欄にチェックをつけ、自立(介護の必要なし)の判定が出てしまうか、要支援2など実際よりも低い介護度になってしまうのです。
認定調査では、日頃はできないことをできると伝えてしまったり、反対に日頃できることをできないと言わずに、介護者の実態を正確に伝えることが重要です。
事実を正確に伝えるためにも、認定調査の際には必ずご家族が同席し、日頃困っていることなどを具体的に伝えることが大事です。
訪問調査が終われば、主治医意見書を作成します。これは市区町村が主治医に作成を依頼しますので、申請者が用意をする必要はありません。
しかし、この「主治医の意見書」はとても重要です。日頃から、かかりつけ医とのコミュニケーションを密にしておくことをおすすめします。
かかりつけ医などの主治医がいない場合は、市区町村が指定した病院やクリニックを受診する必要があります。
申請のためにわざわざ受診するのも大変ですので、元気なうちから年1回の健康診断を同じクリニックで受けるなどして、主治医を決めておくとよいでしょう。
ケアマネジャーがポイント
訪問調査の結果と主治医意見書をもとに、1次判定・2次判定を経て、要介護認定の結果が通知されます。
要介護認定は、介護を必要とする度合いによって、要支援1~2と要介護1~5の7つに区分されて、区分によって受けられるサービスの内容や支給限度額が変わります。
要支援1~2が出た場合は、地域包括支援センターに行き、ケアプランの作成を依頼します。
要介護1~5が出た場合、居宅支援事業所にいるケアマネージャーにケアプランを作成してもらって、介護保険のサービスを開始します。
申請をケアマネージャーに代行してもらった場合、殆どの方がケアプランを作ってもらい、介護保険のサービスを利用しています。
しかし、ケアマネージャーも人間なので相性の良し悪しがあり、親身になってくれるケアマネージャーもいれば、事務的なケアマネージャーもいます。
合わないと感じたり相性が悪いと思っても、一度決めたら変更できないと思ってる方も多いですが、変更できるので新たなケアマネージャーを探しましょう。
認定結果に不満なら不服申立や区分変更
ある高齢者の事例です。
普段は歩くのもやっとで不整脈はあるし、一人で湯舟にも入ることができないにも関わらず、訪問調査の際に「何でもできます」と張り切ってしまった結果、認定結果は要支援と判定。
訪問調査の際に家族が同席しなかったことで、現状を正確に伝えることができませんでした。
日中独居(日中一人暮らし)なので、デイサービスに週3回ほど通って欲しかった家族は「こんなはずじゃなかった」と頭を抱えてしまいました。
この事例のように「こんなはずじゃなかった」という結果が出た場合、都道府県ごとに設置されている「介護保険審査会」に対して、不服申立を行うことができます。
しかし、要介護認定の結果が不当だと結論付けられた場合は改めて調査をしてもらえますが、結果が出るまでに数ヵ月もかかることがあるため、あまり行われていないようです。
その場合は、区分変更申請を行いましょう。
本来は要介護度が変化した時に行う申請で、要介護認定の更新結果が不服であるときに利用するものではありませんが、再度、訪問調査を行ってくれますので、ケアマネージャーに相談してみて下さい。
但し、思い通りの結果が出るとは限りませんのでご注意下さい。