認知症の症状がある高齢者のためのグループホーム
グループホームの正式名称は「認知症対応型共同生活介護施設」です。
その名の通り、認知症の症状がある方が専門スタッフの支援を受けながら共同で生活する施設です。
認知症の高齢者は新しいことを覚えることが難しいため、大人数の施設や毎日スタッフが入れ替わるなど変化が激しい環境では混乱を起こしがちです。
そこで「ユニット」と呼ばれる少人数(5人から9人)単位で、毎日顔なじみの人たちと生活をします。
これらの環境は、認知症の症状の進行を穏やかにするといわれています。
グループホームでは、住み慣れた地域で自宅で生活していたような環境を整え、穏やかに過ごすための工夫がされているのです。
特別養護老人ホームに入居するには条件(基本的に要介護3以上の方)があるように、グループホームにもあります。
ただし、他のホームよりも少々条件が厳しいので、まずは入居の条件からご説明しましょう。
<その1・認知症の症状があること>
入居の条件は「認知症の症状があること」。
入居時に必要な健康診断書の欄に「認知症」と明記されていることが必要です。
「私は認知症です!」と自己申告だけでは入居できません。ただし、認知症の症状が認められれば、要支援2から入居が可能です。
<その2・住民票のあるグループホームにしか入居できない>
介護保険の分類では「地域密着型サービス」に属しています。
「地域密着型サービス」とは、2006年4月の介護保険制度改正により創設されたサービスで、認知症の高齢者や要介護高齢者が住み慣れた地域で生活ができるように、市町村指定の事業者が地域住民に提供するサービスです。市町村が事業者(施設など)の指定を下ろし、その後の監督も行うため、事業所の所在地に住民票がある要介護高齢者のみが利用の対象となります。
簡単に言うと、「グループホームの所在地に住民票がある人だけが入居できる」ということです。住民票があることを証明するために、入居時には住民票の提示が求められます。
「じゃあ、田舎に住んでいる母の住民票をわが家に移しちゃえば、近所のグループホームに入居できるのね!」と思う方もいらっしゃるでしょう。
いやいや、残念ながら世の中そんなに甘くはありません。
「グループホームに入居をするために住民票を移動した」とみなされると入居不可になることがあります。
その理由は、「要介護高齢者が住み慣れた地域で生活ができるように」と言うことが大前提にあるからなのです。
ただし市町村間協議で、「○○市と△△市は協定を結んでいます」というように提携をしていれば、グループホームに入居するために親の住民票を移動しても入居は認められますので、まずは、住民票のある市町村に相談してみましょう。
<その3・身の回りのことがある程度できること>
他のホームと大きく異なる点は、「身の回りのことがある程度できること」です。
家庭的で落ち着いた雰囲気の中で、食事の支度や掃除、洗濯などの日常生活行為を利用者やスタッフが共同で行うことにより、 認知症状が穏やかになり安定した生活と本人の望む生活を実現することができます。』
(公益財団法人認知症グループホーム協会HPより抜粋)
とあるように、自宅にいる時に行っていた食事の支度や掃除、洗濯などの日常生活を、他の利用者さんとスタッフとで共同で行いながら暮らす場所だからです。
そのため、入居時には、ある程度自分のことは自分でできる方が対象となります。
<その4・常時医療的ケアが必要でない方>
グループホームには看護師の人員配置義務がありません。つまり、看護師はいなくて良いので多くのグループホームには看護師がいません。(特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームには、看護師の配置義務があるため常駐しています)。
例えば、胃ろうの管理やインシュリンの注射など、医師の指示により看護師のみが行うことができる医療的ケアが常時必要な方は入居ができません。ただし、医療連携体制が整っているグループホームであれば可能です。
特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームとは大きく異なる毎日の生活
グループホームでは、5〜9人を1ユニットとして共同生活をします。
特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームでは、食事の準備も、お掃除も、洗濯もすべてスタッフが行いますが、グループホームでは、スタッフが見守る中、利用者さんが行います。
私が取材でお邪魔したグループホームでは、
- 新聞係の利用者さんが職員と一緒に、新聞をポストに取りに行きます。その間、お食事係の利用者さんは盛り付けをしたり、テーブルを拭いたりと食事の準備をしています。歩行に不安のある方のお食事は元気な利用者さんが代わりにテーブルに運んでいます。
- 食べ終わった食器を洗うのも、お皿を拭くのも、食器棚にしまうの利用者さんです。
- 食後はお掃除をしたり、洗濯をしたり、庭の花にお水をあげたりするのも利用者さんです。
- お天気の良い日には、ほぼ毎日散歩に出かけます。
こんな風に、それぞれがそれぞれの役割を持ち生活をするのがグループホームです。
ですので、集団生活をすることが苦手な方や、家事が嫌いな方には向かないかもしれませんね。
また、入居者の多くは女性です。
1ユニットに男性1名というホームも多くあります。
私が取材をした多くのグループホームが、男女比率が1:8~2:7でした。
余談になりますが、女性の利用者さん同士がお皿の拭き方でちょっとした言い合いになっていた時に、男性の利用者さんが仲裁に入り見事にその場を収めた場面には感動しました。
その間、スタッフは傍らで状況を見守ってました。このような状況もグループホームならではです。
入居後、寝たきりの状態や常時医療的ケアが必要になった場合は退去しなくてはならない場合もある
前述したように、グループホームには看護師の配置義務がありませんので、多くのグループホームには看護師がいません。
入居中にADLが低下し、寝たきりに近い状態になってしまった方や、常時医療的ケアが必要になった方は退去しなければなりません。
しかし、最近では、「最期までここで暮らしたい」という利用者さんや家族の希望をかなえたい!と、訪問診療や訪問看護など医療との連携を図り、看取りまで行っているグループホームも出てきています。
グループホームで最期まで暮らしたいとお考えの方は、入居を希望するホームにお問い合わせください。
自宅復帰のリハビリが中心の老人保健施設(老健)
老健は、『介護老人保健施設とは、要介護者であって主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設』と、介護保険法第8条第28項で定義されているように、入院後病状が安定したものの、「まだ自宅へ帰るには不安がある」方たちが、自宅へ戻るためのリハビリを必要とする方が対象の施設です。
自宅復帰のためのリハビリを目的にしているため、特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームのように、長期に入居することはできません。基本的に3ヶ月をめどに入居する施設です。
医師が常駐
介護や看護・医師のサポートが受けられる老健は、在宅復帰を目的としている施設ですので医学的な管理のもとで介護、看護、リハビリが行われます。
他の施設にはない大きな特徴の一つが医師が常駐していることです。
医師が常駐しているため、たん吸引やインシュリン注射、経管栄養などの医療的ケアの対応も可能で、施設内で薬も処方してもらうことができます。
また、理学療法士(PT)や作業療法士(OT)、言語聴覚士(ST)などのリハビリの専門スタッフが配置されていて、医師の指示書による在宅復帰に向けたリハビリを受けることができます。
入所中に、担当の理学療法士(PT)やケアマネジャーが自宅の状況を実際に確認し、在宅で安心して生活ができるよう、生活導線のアドバイスをはじめ、住宅改修や福祉用具の選定もしてくれます。
入居期間は原則3ヶ月
他のホームと異なり、入居期間は原則3ヶ月となっています。
在宅に復帰することを目的とした施設のため、入居後3ヶ月ごとに在宅復帰可能かどうかが検討されます。身体状況が回復し、在宅復帰が可能と判断された場合は、退去しなければなりません。
自宅復帰が難しいと判断された場合はそのまま入居していることも可能ですが、一定期間(約3ヶ月〜1年・施設により異なる)が経過しても身体状況の回復が見込めない場合には、退去となり、特別養護老人ホームや有料老人ホームへ転居をすることになります。
またまた、余談になりますが、何故か何年も入居できる老健もあります。
老健を利用する際の注意点
医療保険は使えない
老健に入所中は、介護保険と医療保険を同時に利用することができません(特別養護老人ホームや介護付有料老人ホームでは、受診した際は医療保険が適応になります)。
入所中に必要な医療行為は、施設に常駐している医師が行いますが、介護保険が適用となります。また、入所前から服用している薬は、施設内で処方され、こちらも介護保険が適用されます。
入所中に体調不良となり、施設内では対応が難しい場合は連携している病院に受診します。この場合、費用は施設側が負担します。老健の母体が「医療法人」が多いのはこの辺の事情があるようです。
もし、施設に許可なく施設以外の医療機関を受診した場合は全額自己負担となる可能性があります。
限度額を申請することで補足給付の対象となる場合もある
老健は、特別養護老人ホームと同じく、公的施設ですので、一時金のような費用はありません。
所得の少ない方や生活保護を受給している方などは、限度額認定の申請をすることで、居住費と食費の補足給付(※)を受けることもできます。
※補足給付の対象者は、住民税非課税世帯でかつ、預貯金等の資産の合計が、単身500万円以下、夫婦1,550万円以下)