本人が亡くなると、その遺産は相続されることになりますが、遺言書さえあれば誰にでもそれだけで遺産を相続させることができるわけではありません。
故人の遺産はまずは法的に相続の資格を持つ「法定相続人」に分配されることが大前提となり、その法定相続人が存在しないケースのおいては、「相続管理人」が選定された上で利害関係者に分配され、最終的にはそういった関係者がいない場合、もしくは関係者に分配後、余剰がある場合は「国庫に帰属(国のもの)」となります。
今回は、相続人がいない状態で本人が孤独死した時、その遺産がどうなるのか、必要に応じて場合分けを行いながら一連の流れを順を追って解説していきます。
法定相続人とは?誰が相続人になりうるか
法定相続人とは、民法で定められた本人の遺産を相続する権利を持っている人のことを指します。法定相続人には4段階の優先順位があり、その順位に沿って取り分の有無や割合が定められます。
具体的には優先順位の高い順に以下の通りです。配偶者は常に対象となり、以下子、親、兄弟については上位の対象者が1人でもいる場合は下位の順位の人物は対象者となりません。
配偶者(常に対象)
法的に婚姻関係のある配偶者が最優先で法定相続人となります。
子(第一順位)
次に優先順位が高い立場として、子が法定相続人となります。実子はもちろんのこと、特別養子縁組をしている養子、もしくは配偶者の実子で等であれば故人の子と全く同様の扱いを受けます。そうでない場合、法定相続人となりうる養子の人数は制限されるケースもあります。
なお、子が死亡しており、その子(故人から見て孫)がいる場合は子の相続の権利は孫へと「代襲相続」されます。
親(第二順位)
配偶者がいない場合、もしくは死亡している場合、かつ子供や孫もがいない、もしくは死亡している場合、次の優先順位として親が相続人になります親が死亡している場合は、さらにその親(故人から見て祖父母)に「代襲相続」されます。
兄弟姉妹(第三順位)
配偶者がいない場合、もしくは死亡している場合、かつ子供や孫もがいない、もしくは死亡している場合、かつ両親も祖父母も死亡している場合、最後の優先順位として兄弟姉妹が相続院になります。兄弟姉妹本人が死亡している場合は甥・姪に「代襲相続」されます。
補足:代襲相続
代襲相続とは、法定相続人になりえたが死亡していた場合もしくは相続欠格や排除(いずれも後述)により資格を喪失した場合、その「相続権を相続」する人物のことです。代襲相続はその相続の優先順位も引き継ぎ、代襲相続人が複数いる場合は均等に分配がなされます。
法定相続人不存在とされる2つのケース
法定相続人は前述のように自動的に確定されていくものですが、その法定相続人が「不存在」となるケースがあります。代表的なものは「最初から存在しない」場合と「相続放棄等の手続きにより不存在となる」場合の2パターンです。
法定相続人がそもそもいない場合
法定相続人およびその代襲相続を行う人物が既に死亡している場合、もしくは最初から存在しない場合、当然ながら相続人不存在の状態となります。なお、法定相続人が明確に死亡している場合ではなく、行方不明の場合はただちには相続人不存在とはならないため、注意が必要です。
相続放棄等によって、法定相続人が不存在となるケース
相続というと一般的には本人の財産を受け取ることができる「プラス」の収支のイメージが伴いますが、実際には資産だけでなく借金などの負債も相続対象となります。相続対象が資産より負債の方が多く法定相続人が相続を希望しない場合、本人の死亡を知った日から3か月以内に「相続放棄」の手続きを取れば負債も含め相続を放棄することができます。
法定相続人全員が相続放棄を行った場合は、最初から相続人がいなかったこととなり「相続人不存在」で扱われます。また、遺言書の偽造などに関わった際、相続人の資格がなくなる「相続欠格」や故人の生前、もしくは遺言状での意思表示により法定相続人の資格を剥奪する「排除」などにより法定相続人が不存在となった場合も扱いは同様ですが、これらのケースでは相続放棄と異なり「代襲相続」が可能です。
法定相続人のいないケースでは「相続管理人」が登場
法定相続人が先述のようなケースで「不存在」とされる場合、法定相続人以外の人間が勝手に財産を処分することはできず「相続管理人」が選定されます。
そして相続管理人の管理のもと、法的な手続きを経て債権者(個人に対して何らかの債権を持っていた人物)、特定受遺者(法定相続人ではないが、遺言状により遺産相続の権利を持つ人物)、および特別縁故者(法定相続人ではないが故人と同一生計にあったなど、特別な関係のあった人物)などに分配され、最終的には国の財産となるケースもあります。
相続管理人には法的には誰でもなることが可能
相続管理人は関係者もしくは検察官からの家庭裁判所への申立てで行われます。相続管理人になるにあたって特別な資格は必要なく親族などの関係者がなる場合もありますが、第三者がなるケースもあります。実態としては第三者として選任されるのはそういった業務に長けた弁護士・司法書士などの有資格者のケースが大半です。
相続管理人の任期
相続管理人に選任されると原則として最低でも13か月間はその役目を行わなければなりません。理由としては次の項目で説明する一連の手続きをもとに財産が分配されていきますが、その手続きが全て完了する最短の期間が「13か月間」であるためです。
相続管理人の権限
相続管理人に任命されると、財産の「保存行為」(現状を維持するための行為)および「管理行為」(財産の保存、利用および改良を目的つする行為)が行えるようになります。また、家庭裁判所からの許可を受けることで資産物の売却などの「処分行為」(財産または財産権の変動を目的とする行為)が行えます。
相続管理人の報酬は管理財産、もしくは予納金から捻出
弁護士や司法書士などの第三者が相続管理人になる場合は相場として月数万円程度、その業務に対する報酬が発生しますが、原資は基本的に管理対象となる遺産の中からねん出されます。ただし、対象となる遺産の額が少なく報酬の払出が期待できない場合、別途「予納金」と呼ばれる費用所に収める形で報酬が確保されます。
財産が分配される流れ
実際に財産が分配される流れについて順を追って説明していきます。
①相続管理人選定時の公告
まず、相続管理人が選定された時点で官報に公告が行われます。この公告は債権者や特別受遺者といった関係者に対して、故人の財産が相続管理対象となった旨およびその相続管理人を知らせることを目的として行われます。
②債権者、特別受遺者への債権申出の公告
次に、故人に借金などの債権のある債権者および、遺言状で指定された特別受遺者などがその債権の支払を求められる期間が2か月間設けられます。これらの関係者が存在し、管理対象となっている遺産の中から支払を受けたい場合この期間の間に申立てを行います。
③相続人捜索の公告
法定相続人が不存在とされた時点で相続管理人が選任されますが、この段階で改めて相続人が本当にいないかを最終的に確認する意味で公告が出されます。この期間は6か月以上と定められており、もし相続人が実際にいた場合はこの段階で手続きが行われることとなります。決められた期間が経過すると最終的に「相続人不存在」が確認されます。
④特別縁故者への分配(審判)
相続人が不存在であることが法的に確認されると、残っている管理財産は「特別縁故者」へと分配されます。特別縁故者とは法的に相続関係は生じないが故人と生前「特別な」関係にあった人物のことを指します。
具体的には、婚姻関係を結んでいない内縁の配偶者や故人と生計を共にしていた人物、もしくは生前、故人を検診的に介護していた人物などが該当しますが、法的に厳格な定義があるわけではなく、家庭裁判所により特別縁故者と認定された人物が該当します。
この特別縁故者への分配は自動的に行われるものではなく、あくまでその特別縁故者となりうる立場の人物から申立てがあり、家庭裁判所がそれを認めたケースにおいて初めて分配が生じえます。特別縁故者は家庭裁判所から認められた分だけの分配を受けることが可能です。
なお、特別縁故者の申立ての期間は3か月間とされています。
⑤国庫への帰属
上記の手続きを経て関係者がいなかった場合、もしくは関係者への分配が行われなお財産が残っている場合、必要に応じて相続管理人への報酬の付与、および申立人に予納金が還付された後、最終的に残っている財産は国庫へと帰属(国の財産)となります。ここまでの一連の手続きが全て終了した段階で、相続管理人の業務も終了となります。
まとめ
相続人がいない際の遺産(管理財産)の分配の流れを改めて要点としてまとめます。
・相続管理人(関係者、もしくは弁護士・司法書士など)の選定 / 公告
↓(2か月)
・債権者、特別受遺者への債権申出の公告
↓(2か月)
・相続人捜索の公告
↓(6か月)
・特別縁故者への分配(審判)
↓(3か月)
・国庫への帰属
遺産の取り扱いについては、法定相続人がいない場合特に複雑な手続きを経ることになることがご理解いただけたのではないでしょうか?
もし、ご自身に法定相続人がおらず相続したい相手が法定相続人に当たらない場合、遺産を受け取ることができる優先順位は遺言状で定められた「特別受遺者」であるか自ら申請し、家庭裁判所に認められる必要がある「特別縁故者」であるかによっても変わってきます。
特定の関係者に遺産を贈与したいという意思がある場合、上記のような流れも意識しながら事前に遺言書を準備しておく方が良いと言えるでしょう。