最近、利用する方が増えているのが「財産管理委託契約」です。
病気やケガ、高齢などにより、自分で財産を管理できなくなった時の強い味方となる、財産管理委託契約について解説します。
財産管理委託契約とは?
- 病気やケガで、事故により車いすの生活になり、外出が難しくなった
- 長期の療養が必要となり、様々な手続きをすることが困難になった
- 高齢になり、一人で外出することが難しくなった
- 高齢になり、自信の財産を管理することが不安になった
財産管理契約とは、これらの理由から自分の財産を自分で管理することができなくなったり、不安を覚えた場合に財産管理や身上監護・療養看護などに関する事項について、代理権を与えておけるものです。
財産管理委託契約は、任意代理契約とも呼ばれていて、民法上の委任契約の規定に基づきます。
契約する相手は、家族や親戚のほかに、第三者や専門家が財産管理委託契約を受託するケースもあります。
配偶者や子どもがいる場合、家族がご本人に代わって様々な手続きを行うケースがほとんどですが、いわゆる「おひとり様」と呼ばれるご家族がいない方や、親族が遠方であったり、高齢のため頼むことが難しい方ことから、財産管理委託契約をすることが多いようです。
また、施設に入居し、財産の管理を家族に任せたところ、年金支給日に家族が本人の了解なしに、全額を引き出してしまうため、施設の利用料の引き落としが残高不足で不能になってしまうなどのケースもあります。
実際に多くの施設でこのような事例は起きているのです。ご自身が施設に入居する際に、ご家族に財産管理を任せることに不安がある方にも適しているかもしれません。
財産管理委託契約で依頼できる内容は?
財産管理委託契約で依頼できる内容は、依頼する本人が希望する内容を受託する当事者間が、合意することにより自由に設定することができます。一例をご紹介します。
- 金融機関から預金の引出や解約
- 年金収入・生活保護等の財産管理
- 医療機関の利用に関する手続き
- 福祉サービスの利用に関する手続き
(要介護認定の申請、介護保険を利用したサービスの契約、契約内容の変更など) - 医療機関への入院費の支払いや福祉サービス利用に関する費用の支払いなど
- 介護施設への入所手続き
- 賃貸している不動産の家賃収入の管理
- 役所での住民票や戸籍の取得
- 生活用品の購入
但し、手術や延命治療といった医療行為に関する同意権はありませんので、注意が必要です。
成年後見制度との違いは?
財産管理委託契約と成年後見制度は、どこが違うのでしょうか。
成年後見制度とは、精神上の障害(知的障害、精神障害、認知症など)により、判断能力が不十分となった方が不利益を被らないよう、本人保護をするために家庭裁判所に申立後に成年後見人を選任して、本人を保護する制度です。
成年後見制度は、本人が判断能力が不十分になった時に利用するものに対して、財産管理委任契約は、判断能力はあるときから利用できることが、成年後見制度との大きな違いになります。
成年後見制度は、本人が死亡した時点で契約が終了するため、後見人が管理していた財産は相続人に承継されることになります。したがって葬儀や埋葬についても相続人や親族が対応することとなります。
つまり後見人には、ご本人の葬儀や埋葬を行う権限はないため、後見人が葬儀を行うことはできません。
家族信託との違いは?
財産管理委託契約と家族信託はどこが違うのでしょうか。
家族信託とは、自分の財産を家族に託し、本人の代わりに管理・運用・処分してもらう制度です。
家族信託の当事者は、委託者(財産を託す人)、受託者(財産を管理する人)、受益者(財産の利益を受ける人)の三者からなり、発生する利益を受益者が受け取るという信託契約を結ぶものです。
財産管理委任契約は、契約に基づいて財産の管理をするための様々な事柄を委任するという契約です。
財産管理委任契約のメリット
成年後見制度と財産管理委任契約との違いは先に説明しましたが、財産管理委任契約にはどんなメリットがあるのでしょうか?
委任する内容を自分で決めることができる
判断能力が不十分になってから利用する成年後見制度と異なり、判断能力があるうちに財産の管理を委任することができます。
また、委任する内容や範囲に関してもご本人が自由に決めることができることもメリットのひとつでしょう。
金融機関からの預金引き出しのみを委任することもできますし、生活用品の買い物のみを委任することもできます。ご自身が必要と思われる内容だけを定めることができます。
契約の内容次第では、本人が判断能力を失ったあとにも財産管理や、亡くなったあとの財産管理についても規定しておくことが可能です。
手続きごとに委任状を書く手間が省ける
住民票や戸籍謄本の取得や、預金口座の引き出しなど本人しかできない手続などを、ご自身ができない場合には、誰かに依頼しなくてはなりません。
その場合、依頼する度に委任状を書く必要があります。
しかし、財産管理委任契約をする際に、このような手続きに関して代理で行ってもらう旨を記載しておくことで、その都度委任状を作成する必要はありません。
但し、銀行によっては、窓口での手続を拒否される可能性もあります。銀行により対応が異なるケースがありますので注意が必要です。
このような場合には、「○○銀行○○支店。〇〇信用金庫〇〇支店。委任者名義の預貯金に関する払戻し、預入れ、口座開設、振込依頼、解約、その他すべての取引に関する代理権。」などのように、委任項目に銀行名を明記しておくことをお薦めします。
死後事務委任契約とのセットでさらに安心
成年後見制度では、本人の死亡により成年後見人等の法定代理権は消滅しまうため、ご本人が死亡した時点から、何の代理権もなくなってしまいます。
つまり、成年後見人は死後の葬儀の施行や、介護施設・医療機関などへの未払い金の支払いなど、財産管理行為をすることはできなくなるのです。
また、死後には、市役所への事務手続きや、公共料金の支払いや解約、国民健康保険・介護保険・国民年金・厚生年金などの抹消手続きなど、やらなくてはならないことがあります。
これらの手続きを遺言書に記載しても、依頼された人が拒否した場合に法的な効力はありません。
この場合、財産管理委託契約とセットで死後事務委任契約を作成することで、次のような手続を依頼することができます。
死亡届の提出
- 役所への死亡届の提出・火葬許可証の受理・戸籍の除籍の申請
- 健康保険、年金資格の抹消申請
- 国民健康保険・介護保険・国民年金・厚生年金などの抹消手続
- 病院、介護施設の手続
- 病院の退院、施設の退所の手続
- 死亡診断書の受領
- 施設の居室の残置物の整理
- 現状回復が必要な場合は、その手続きと費用の支払い
- 退去日までの利用料の支払い
- 入居一時金等を預けている場合は残金の受領
- 公共料金、税金の支払い
- 水道、ガス、電気、電話料金の精算や解約
- 税金の支払
- 賃貸物件の退去・解約手続
- スマートフォンの解約手続
- 葬儀、埋葬の手配
- 本人の意向にもとづく葬儀の手配(お通夜、告別式、火葬など)
- 本人の意向に基づく埋葬の手配(墓地、永代供養、海洋散骨など)墓石建立を希望されている場合も含む
- 遺品の整理手続
- 遺品整理代行業者の手配
- デジタル遺品整理(パソコン・スマートフォン・ハードディスクの廃棄、画像削除、メール削除、WEBサービスの解約など)の代行業者の手配
財産管理委任契約のデメリット
財産管理委任契約は、自由度が高く、利用する際におけるメリットは前述したように様々あります。
しかし、成年後見制度の後見人には、本人が行った法律行為取り消すことができる「取消権」がありますが、「財産管理委任契約」にはありません。
また、監督人が存在しないこと(専任することはできる)などのデメリットもあります。
公的書類ではないため社会的信用が十分ではない
公正証書の作成や、契約内容も後見登記といった手続きは行われないので、社会的信用が低いことがデメリットです。
契約内容を公正証書にすることもできますが、長期の療養中や外出ができない方の場合、公証役場に行くこと自体が難しいと考えられます。
そのような場合には、弁護士や司法書士に代わりに対応してもらうことも可能です。
代理人をチェックする機関がない
契約内容が正しく行われているかをチェックする監督者がいないため、実際に契約した内容が正しく行われているか確認することができないことがデメリットです。
受任者を選ぶ際には、本当に信頼がおける人を選ぶことが大切です。
どんなに信用できる人だと思っていても、魔がさすこともあるやもしれません。そのような場合に備えて、受任者には弁護士や司法書士などの専門家や、財産管理委託契約を受託する会社を選ぶことをおすすめします。
成年後見制度に認められている「取消権」がない
成年後見制度では認められている「取消権」が認められていません。
例えば委任者が詐欺などの被害にあったとしても、受任者が代行して契約の取り消しをすることはできませんので、注意が必要です。
早期対策で老後生活を安心に
今回は、財産管理委任契約の概要や、メリット・デメリット、財産管理と成年後見制度・家族信託の違いについてご説明しました。
年齢を重ねると、今まで出来ていたことが難しくなります。また、判断力はあるものの、身体が思うように動かなく実行できないこともあるでしょう。
気軽に頼める家族が身近にいる方はともかく、高齢者だけの世帯や独居高齢者の方は、日々の生活で困ることも色々とあることでしょう。
そのような場合に、信頼できる専門家や会社と財産管理委任契約を結び、継続的に代行してもらえると安心です。
また、財産管理委任契約は、判断能力が減退した場合であっても契約そのものが自動的に終了となることはありませんし、死後事務委任契約を同時に契約することで、死後における手続きに関しても委任することができます。
人生100年時代と言われています、先の長い老後生活のためにも、早めに対策をとっておくと安心かもしれません。