ここでは多くの方が、有料老人ホームとは特別養護老人ホームの事と思っているであろう特別養護老人ホームについて解説します。
公共機関が運営する特別養護老人ホーム
特別養護老人ホームは、地方自治体や社会福祉法人が運営する公的な老人ホームで、介護保険法では「介護老人福祉施設」と言います。
一般的には「特養」と呼ばれ、原則として「要介護3以上」の方が入居できる介護施設で、利用料は年収によって5段階に分けられ、民間の有料老人ホームと比較すると費用が安いことが特徴です。
しかし、2000年以降に開設したユニット型(個室・洗面台付)の特別養護老人ホームの利用料は、安いといっても多床室や従来型個室の利用料と比較すると割高です。
年収で決まる1ヶ月の利用料
特別養護老人ホームは安いという声を良く聞きますが、それは年収によって負担限度額制度というものがあり、年収の少ない人は居住費(部屋代)と食費の「補足給付」を、介護保険から受けることができるからです。
負担限度額は5段階に分けられていて、基準となる要件は次の2つの条件から第1段階~第4段階に設定されます。
段階別比較表
年金収入等 | 預貯金等の資産状況 | |
第1段階 | 老齢福祉年金受給者 生活保護受給者 | 単身1,000万円以下 夫婦2,000万円以下 |
第2段階 | 世帯全員が住民税非課税で80万円以下 | 単身650万円 夫婦1,650万円 |
第3段階① | 世帯全員が住民税非課税で 80万円超120万円以下 | 単身550万円 夫婦1,550万円 |
第3段階② | 世帯全員が住民税非課税で 120万円超 | 単身500万円 夫婦1,500万円 |
第4段階 | 上記以外の人 |
表の要件を満たした人が負担限度額制度を利用して、補足給付を受けることができます。言い換えると「要件を満たしている人は特養に安く入居できる」ということです。
表からも解かるように、要件を満たすことができる人は年金等の年収が約155万円以下の「住民税非課税世帯」の方で、プラス各段階によって預貯金の額も満たしている方になります。
残念ながら住民税課税世帯の方は、補足給付を受けられる条件から外れ、施設が決めた1ヶ月の利用料を支払うことになります。
ユニット型(新型特養)の利用料はそんなに安くない
埼玉県にある特別養護老人ホームの一例で、ユニット型特養に入所した場合の1ヶ月の利用料を比較します。
【補足給付対象者の1ヶ月利用料】
ユニット型個室:要介護3、第3段階②、1割負担者 (30日換算)
基本サービスご利用料金+加算項目+食費+居住費+その他の費用=118,980円
【補足給付対象外の1ヶ月利用料】
ユニット型個室:要介護3、第4段階、1割負担者(30日換算)
基本サービスご利用料金+加算項目+食費+居住費+その他の費用=154,950円
これに医療費や薬代・理美容代などが必要になるため、どちらの場合もプラス1万~2万ほどはかかると思っていた方が良いでしょう。
民間が運営する介護付有料老人ホームに比べれば比較的安価ですが、この金額を見て考えていた金額よりも高いと思われる方も多いのではないでしょうか?
第3段階②に該当する年金収入額を120万円の場合、1ヶ月の年金額は約10万円です。まったく預貯金もなく援助してくれる家族がいなければ利用料を支払うことができません。
多くの方が、特別養護老人ホームは安いと思っているようですが、ユニット型の特養はそんなに安くないのです。
利用料が安いのは多床室
安価で利用できる特別養護老人ホームをご希望される場合、従来型特養と呼ばれる特養にある多床室タイプであれば、ユニット型より安い利用料で入所できます。
多床室とはざっくりとした表現になりますが、個室ではなく病院の大部屋みたいなもので仕切りはカーテンです。施設により若干異なりますが、1つのスペースに4人~6人が一緒に生活します。洗面場所ありません。
個室ではないので居住費負担が少なく、1ヶ月の利用料が安くなっているという仕組みです。
埼玉県にある特別養護老人ホームの一例で、ユニット型特養に入所した場合の1ヶ月の利用料を比較します。
【補足給付対象者の1ヶ月利用料】
多床室:要介護3、第3段階②、1割負担者(30日換算)
基本サービスご利用料金+加算項目+食費+居住費+その他の費用=86,946円
【補足給付対象者外の1ヶ月利用料】
多床室:要介護3、第4段階、1割負担者(30日換算)
基本サービスご利用料金+加算項目+食費+居住費+その他の費用=108,176円
ユニット型特養の利用料と比較すると安い利用料で入居できます。
ユニット型と同様に、医療費や薬代・理美容代などが必要になるため、どちらの場合もプラス1万~2万ほどはかかると思っていた方が良いでしょう。
負担限度額の認定申請の方法
ここで、負担限度額の認定申請方法について簡単にご説明をします。
介護保険負担限度額の申請をして、補足給付の対象となる方の条件は、世帯全員(別世帯の配偶者を含む)が市町村住民税非課税の場合で、市町村住民税課税の場合は対象となりませんのでご注意ください。
補足給付の対象となる介護保険のサービスは、介護保険施設(特別養護老人ホーム、介護老人保健施設など)への入所や短期入所(ショートステイ)の居住費・食費に限定され、民間企業が運営する介護付有料老人ホームや短期入所(ショートステイ)は補足給付は受けられません。
申請時の必要書類
手続きは住民票のある介護保険課などの窓口となります。
- 申請書兼同意書(署名又は記名押印)
※自治体のホームページからダウンロード可
※成年後見人の方が申請される場合は登記事項証明の写しを添付 - 資産を確認するための書類
・預貯金の通帳等(普通・定期・積立等すべての口座残高が対象)の写し
・投資信託・有価証券等がある場合は証券会社や銀行の口座残高の写し
・銀行名・支店名・預金種別・口座番号・口座名義人が分かるページ
・普通預金の口座残高が分かるページ(提出日より2ヶ月以内に記帳されたもの)
・年金振込口座の場合は直近の年金振込が記帳されたページ
・定期預金・定期積金のページ(預金残高の有無にかかわらず、添付が必要) - 配偶者についても添付が必要です
- 本人の個人番号(マイナンバー)を確認できる書類(個人番号カード等)
- 本人(又は代理人)の本人確認書類等
※免許証や障害者手帳等の顔写真入りのものは1点
※介護保険証・負担割合証・医療保険証等の顔写真の無いものは2点 - 代理人の方は、委任状又は本人に発行された保険証や認定証等を持参
資産に含まれる預貯金等の種類
- 預貯金(普通・定期)
- 有価証券(株式・国債・地方債・社債など)
- 金・銀(積立購入を含む)など
- 購入先の口座残高によって時価評価額が容易に把握できる貴金属
- 投資信託
- タンス預金(現金)
預貯金等に含まれないもの
- 土地、家屋、生命保険
- 自動車、腕時計宝石など
- 時価評価額の把握が難しい貴金属などや絵画、骨董品、家財など
借入金や住宅ローンなどの負債がある場合には、預貯金等から差し引いて計算してくれますので、必ず借用証書などの写しを持参しましょう。
この制度の適用の期間は、8月1日から翌年7月31日までの1年間で、適用期間ごとに申請が必要になります。
つまり、毎年更新の手続きが必要になります。
虚偽の申告をして不正に補足支給を受けた場合は、介護保険法第22条第1項の規定に基づき、それまでに受けた給付額に加え、最大2倍の加算金(給付額と併せ最大3倍の額)を納付していただく場合がありますので、正しく申告をしてください。
人気の多床室は空待ち
特別養護老人ホームは満室で入居できないと思われている方も多いと思いますが、待機者の多くは利用料の安い多床室の空を待っている方が多いようです。
東京都内は数が少ないためユニット型も満室ですが、神奈川県・千葉県・埼玉県の郊外にある特養では空室も目立ちますので、郊外の特養に入居しながら、都内の特養の空を待つのも一つの選択肢ではないでしょうか?