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高齢者のリハビリは生活を豊かにする

リハビリというと、怪我をした後に病院で行う治療が一番思い出されることでしょう。しかし、怪我を治すだけがリハビリではありません。

この記事では、高齢者がリハビリをする事でどんなことができるのかを書いていきたいと思います。

目次

高齢者にリハビリが必要なわけ

高齢者の場合は、年齢に伴う身体的な衰えや機能の低下によって出来ないことが増えていき、それによって体を動かすことが億劫になり、精神的にも落ちていきます。

高齢者のリハビリではできないことが増えないように、また身体的にも精神的にも健康的な生活を維持するためにプログラムを行います。

身体的なリハビリの他にも、高齢者のリハビリプログラムの中では、認知機能の訓練でうつ病や認知症のリスクを軽減させたり、社会参加の促進や生きがいの追求を支援することで孤独感を減らして生活の質を上げるという目的もあります。

余計なお世話だと思う方もいらっしゃるかもしれません。

まさにその通りなのですが、今の生活にもう少しできる事やわくわくする事が増えたらもっと楽しいと思いませんか?

次の事例は、リハビリをした事で少しだけ、毎日が充実したSさんのお話です。

【事例】軽度の認知症うつ状態から人の役に立てる幸せを再発見した生活

リハビリSさん(79歳女性)は、軽度の認知症です。ご本人は認知症になっているとは思ってもいません。結婚はせずに仕事一筋で頑張ってきたSさんはとても社交的で明るい性格でした。

しかし、退職してからは目的を失ったように毎日家の中で過ごし、ボーっとテレビを見て過ごしていました。しょっちゅう連絡を取っていた姪が、ほとんど電話が来なくなったことを心配し、家に行くと昼間なのに真っ暗な部屋の中でただ座っているSさんが居ました。

食事も摂っているのかいないのか、冷蔵庫の中身はほとんど入っていませんでした。

「何もやる気が起きなくて、お腹もすかないの。動いてないから食べたら太るでしょ。」と言うSさんを病院へ連れていくと、軽度の認知症と軽度のうつ病と診断されました。

姪はこのままSさんを自宅で一人にしておけないと思い、有料老人ホームを見学しに行きました。

一緒に行ったSさんは、自宅があるのにと言いつつも、姪の強い希望と元の社交的な性格からか「じゃあお試しでね」と体験入居をする事になりました。

入居当日は、部屋の荷物の整理もそこそこにほとんどベッドに腰かけてボーっとしていたSさんですが、食堂での食事の時は他のご入居者と会話をして、帰りにスタッフへ「美味しかったわ、ありがとう」と笑顔を向けてくれました。

夜になると、なかなか寝付けない様子で巡回に来たスタッフへ不安を話してくれました。

「こんな所まで来てしまって、私はもう役立たずなおばあさんでしょ。家に居たってやることもないし、誰も来ないし、生きててもつまらないの。あなたは若くて仕事もして楽しい事ばかりでうらやましいわ。」

スタッフは、静かに話しを聞きながら、Sさんにしてあげられることはないかと考えました。

翌朝、やはり眠れなかったのかベッドに座っているSさんに、廊下のカーテンを開けるのを手伝ってくれないかとお願いしてみました。

長い間自宅でほとんど動いていなかったSさんの足取りはすぐにつまずいて転倒するリスクがとても高かったので、スタッフは隣について一緒に長い廊下のカーテンをひとつずつ開けていきました。

「こんなにカーテンあるのにひとつずつ束ねなくちゃいけないのは大変ね。」とスタッフを労ってくれたSさんですが、指を動かすのも難しいのかカーテンのタッセルをかけるのに時間がかかりました。

「ごめんなさいね。まごまごしちゃって。これじゃあお手伝いになってないんじゃない?」

「そんなことないですよ。まだ誰も起きてないから一人でやるのは寂しいですし、廊下の端からお化けでも出たら嫌ですもん。」

「お化け出るの?私お化け屋敷好きよ。こわいもの見たさかしら。」

スタッフが、明るく話しかけると、Sさんも明るく答えてくれました。Sさんは、とてもおしゃべりがお好きなようでした。

日中はなるべくお部屋で一人にならないように、他の入居者とお茶ができるようにお誘いし、レクや体操にも参加していただきました。すると自分から部屋を出て他の入居者とお話しをするようになったのです。

そして、スタッフが机を拭いたり、湯飲みを洗っていると、手伝うわと自分から声を掛けてくれました。体験入居が終わるころ、Sさんと一緒に食事の準備でお箸を並べていると仰ってくれました。

「ここは、やることがたくさんあって楽しいわね。動くからご飯もおいしいし、部屋を出てすぐに誰かいるから寂しくもない。こうやって、人の為にお箸を並べたりできるのもなんだか嬉しいわ。あなた達は仕事だから大変と思うかもしれないけど、私は小さな幸せを見つけた気分よ。」

そのとても嬉しい言葉と共に、Sさんは施設への入居を決めてくれました。Sさんの入居後スタッフは、Sさんをカーテンの開け閉めと、食事の際のテーブル拭きとお箸を並べる係に任命しました。

Sさんはとても喜んで下さり「お給料は出るのかしら」と冗談を言うくらい明るい性格も戻られました。今では、他の入居者にもカーテンのタッセルの束ね方やお箸の並べ方を教えてくださっています。

気持ちが明るくなり、動くのも楽しくなったと仰って、散歩にもよく出かけられるようになり、体操や理学療法士のリハビリも進んで参加されるようになったため、歩き方が不安定だったのも少し改善が見られました。

指先もよく動くようになり、カーテンの開け閉めはどんどん早くなって、折り紙の工作も様々なものを作り飾って楽しまれています。

生活リハビリの役割

日常生活動作(ADL)の訓練や家庭環境の調整、身の回りの手助けを通じて、高齢者が自宅やコミュニティでの生活を身体的、精神的に改善できるように支援する事を生活リハビリと言います。

生活リハビリに定義はありませんが、事例でSさんが行っていたカーテンの開け閉めや食事の準備、他の入居者とのお茶やレクへの参加は、生活リハビリと呼ばれるものです。

しかし、スタッフはSさんにリハビリをしましょうとは言いませんでした。リハビリという言葉を使うと抵抗があると思ったからです。

Sさんは、軽いうつ病もありましたが根は明るい性格だったので、一緒に動く事を提案しました。スタッフの手伝いをして人の役に立つというのは、Sさんにとって退職してからは中々出来なかった経験です。

この社会的な活動を通して得た満足感も精神的なリハビリの一つになります。

生活リハビリの実践方法

生活リハビリの実践方法は、身体的な側面、認知機能、社会的な側面で考えます。身体的な側面では、日常生活動作(ADL)の訓練です。

難しそうな名前ですが、これは入浴や着替え、食事の準備等といった日常的な動作の練習の事です。

Sさんの場合は、カーテンの開け閉めや食事の箸を並べることに当たります。

適度な運動や体力トレーニングを取り入れれば、筋力やバランスを改善し、転倒や怪我のリスクも軽減します。カーテンの開け閉めをするために廊下を歩くことも、少しですが運動と取らえる事ができます。

認知機能の維持や向上のためには、記憶力の向上を促す活動を取り入れます。具体的には、パズルやクイズ、記憶ゲームなどの認知活動を取り入れることで、脳の活性化を図ります。

Sさんの場合は、レクの時間に折り紙をしたり指先を使う事や、数独パズルなどをやられていました。社会的な側面では、コミュニティ活動や趣味の提供、ボランティア活動などを通じて、社会参加を促進します。

これにより孤立感を減らし、精神的な健康を維持するだけでなく、生活の意義や充実感を得ることができます。

Sさんには、この側面が一番効果的に達成できた事です。

おひとりで暮らしていた時には、まったくお話をしない日もあったようですので、施設に来てドアを開けるとすぐに人がいる環境と他の入居者と時間も気にすることなくお喋りができることは、Sさんにとってとても楽しく精神的にも安定した日々を送ることができる要素でした。

生活リハビリの良いところはリハビリのつもりではなく、普通に生活をしている中でリハビリになるところです。

介護者は、継続的な支援が必要ですが、無理なく続けることができることなので、支援もしやすいかと思います。

まとめ

高齢者へリハビリの必要性を話しても、あまり理解をされる方は少ないかと思います。「リハビリをやりましょう。」という声掛けを断わる高齢者に悩む介護職員も多いです。

それもそのはずで、若いころから運動が大事だと言われていても、毎日の運動習慣がある人は少ないのと同じことだと思います。筆者が勤めていた介護施設でもそんな方が多かったです。

実際、理学療法士がリハビリプログラムをたくさん作って家でやって下さいといった所で、実践する人はごく僅かです。

そんな時は「一緒にご飯を作りませんか?」等の○○の為に、という口実が作りやすい生活リハビリを取り入れるとうまくいきました。高齢になると孤独を感じやすいです。

特に一人暮らしの高齢者は、自分が動かなくても誰も困らないという気持ちもあり、ますます動かなくなってしまいます。

人は、誰かの為に生きることができるとそれが生きがいに感じ、じぶんも生きているのだと実感できるそうです。誰かのためというのは、家族であったり、仕事であったり、趣味でもいいと思います。

○○の為に○○が、どんな事だと体を動かすきっかけになるのかを探すことも介護の大切な部分です。

高齢者の生活が豊かになるように、その方に合った生活リハビリを見つけて上げられればと思います。

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この記事を書いた人

ホールドハンズ株式会社
シニアサポート事業部所属

1994年(平成6年)3月生
埼玉県出身
1男1女の4名家族

介護付き有料老人ホームの介護スタッフとしての経験を積み、ホールドハンズ株式会社へ入社。

「シニアが安心して生活できる環境創造企業」の企業理念の下に、高齢者住宅へ入居の際の身元保証を中心に、専門家との協業により高齢者施設さがしから不用品処分、不動産売却、認知症問題などといった様々な課題の総合窓口としてサポートを展開中。

介護職経験を活かしたシニア視点のきめ細やかかなサポートが好評。

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